奈良歴の長いゆうこさんも言っていたのだが、
奈良の食事は期待できないと思っていた。
しかし、志のある料理人がいれば客は集まる。
この店が、そうだった。
正直に言おう、店名には少し躊躇した。
しかし、ガイドブックの小さな料理の写真に、なにかを感じていたのだ。
のれんをくぐると、店主と目が合った。
面構えにはったりがない。期待できそうだと直感する。
カウンターには先客。幸いなことに、入口近くに2つだけ席があった。
お飲み物はと聞かれ、ビールを貰う。
しかし、メニューが見当たらない。
で、店主に訊ねると、
「食べられないものだけ伺って、あとは、こちらで次々にお出しします」
というらしい。
初めての店でこれは冒険でもあるが、もう身を任すしかない。
ゆうこさんは鰻が苦手だった。それを伝えると、
「いやあ、それは残念です。今日はいい鰻が入っているのに」
その時は、店主の軽口だと思っていた。
最初は、おこぜの薄づくり。
次いで出てきたのがこれだった。
ボリュームにびっくりしたが、その新鮮な味わいにはさらに驚かされた。
お酒は、とりあえず、お燗。銘柄不明。
最初カウンターに座るなり、店主がさばくサバに目が行った。
身が張ってまるまるとして、いかにも旨そうだったのだ。
あれが食べたいなと思っていたら、以心伝心、刺身で出てきた。
これがサバなのかと思う。
お酒は、そろそろ風の森に移行していたかも。
和食ばかりなのかと思うと、こういうのも出て来る。
白ワイン代わりに、これもお酒で。
次のができる前にと、先ほどのサバのかまを焼いてくれた。
カメラを向けたら、「こんなのも撮るの?」。
いや、とてもうまそうだし。
野菜も地のものを。奈良の野菜はうまい。
冒頭の、鰻の話はほんとうだった。
今日は天然ものじゃないけどと、まな板に乗せた鰻は充分に肥えた上物。
さばいている間もぴくりと動く。
これを一尾串にして焼く。
脂を落としながら表面をぱりっとさせて、
身は適度に張りを持ちながら甘くやわらかい。
店主が太鼓判を押す通り、ゆうこさんも、これなら食べられた。
えと、このあたりで、次の酒だったかな。
店主が大阪の酒があるというので、
僕は能勢町の酒しか知らないけどと思っていたら、
ずばり、その酒がでてきた。秋鹿です。こういう邂逅は、うれしい。
最初薄づくりで出てきた花オコゼの煮物。
もうね、お酒がすすむ品ばかりで、何度も秋鹿をお代わり。
居合わせた家族連れの常連さんからは、義侠をいただいた。
いつも食べにいらっしゃるようで、
僕たちのような一見ふぜいが店をあれこれ言うのはおこがましいが
ご容赦ください。
最後は、僕らだけが残り客。鰻の肝二尾分が入ったうな雑炊。
これがまた、どうしたことかってくらい、うまい。
変なくどさなどとは無縁。お代わりまでしてしまった。
いい仕事を御馳走になりました。
こういうのを、本当の贅沢というのだと思う。
店の名は、はらぺ子
奈良は、うまいのである。
ごちそうさま。